トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年03月31日(木)

今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。




★ちょっと変わった家族小説。

★母と父と長男と次男の4人家族。長男は27歳会社員、次男が23歳大学生、父は62歳自営業。つまり、自分で事業を始めた、、、その4人の視点から1章、2章、、、と語られて、最後にエピローグがつく、という形。

★出だしは、ちょっと暗めの話で始まる。で、暗いのかな、と思うと、徐々にそうでない、と段々、判明してくる話。

★まず、第1章。最初は母親の視点から始まる。61歳の主婦だが、物忘れが激しくなる。そして、痴呆症かというエピソードがいろいろと語られ、母親が倒れるところで終わる。

★そして、第2章。長男の視点。長男は妻がいるが、この妻が長男の両親、つまり、舅、姑と仲がよくない。というのも、事情がそれぞれあって、必ずしもこの嫁が冷たい訳ではなくて、段々これ判明する。
★実は長男の両親は、結構、金遣いが荒くて無計画。嫁は、まず母親に借金があるという事に気がつき、父親のも気付く。加えて、問題は言い方や態度、「カチン」と来ている。
★大変なのは両親と嫁の間に入る長男。ただ一方、長男は長男で、家庭では心休まらず、違う女性に誘惑されて、、そこで母親が倒れ、父の事業がうまくいかずでこの章が終わる。

★一番面白いのが次の第3章。弟の視点。
★この次男は大学生だが、表面的には調子のいい男で、軽薄と、よく人に言われる。実家にもあまり寄り付かずに、困った時と母親に連絡して、金をせびるタイプ。

★一番、問題のある男だが、面白いのは、母親が倒れ、父の事業がうまくいかず、という家族の危機の中、この男が一番、頼りになる。理由はその行動力。まず母親の病気が   何かを調べ、医者を訪ね、、、この辺の描写が非常にうまいのだが、段々、この次男の人間性のよさがわかってくる。
★そして、母の病気を通して弟と兄が度々、会ううちに、兄は知らなかった弟の行動力を知り、弟に足りない実務能力を補うようになる。ある種のチームワークが生まれる。

★実はすごくいいところが弟の章の最後ぐらいにある。こういう言葉が出てくる「ノブレス・オブリージュ(仏)」高貴なる義務の意。
★兄貴の弟に言うセリフ。「おまえいつかノブレス・オブリージュって言ってたよな。おれ最近、それすごくいいなと思っているんだ。家族の誰かが苦しかったら、役割とか抜きにして救える誰かが何とかする。周りに苦しいという人がいるだけで、現状が進んでいくんだ。」つまり、母親が倒れるまでバラバラな家族が少しずつ、それが変わっていく。

★すごくうまいのは美談で終わっていない所。目の前にある問題に対し、家族みんなで取り組もうという姿勢が出てくるが、かといって家族が急に仲良くなる訳ではない。
★ただ、家族に危機があった時は、みんなが立ち上がるだろうという関係性が生まれてきたところで終わる。そこにリアリティがあり、非常に力が沸いてくる小説。

★この作家はこれが3作目。「ひゃくはち」という小説でデビューしたが、これは、異色の高校野球小説。どう異色かというと、野球のシーンが一切出てこず、野球部の話。第2作が「スリーピング★ブッダ」。これも異色で、お坊さんになる2人の青年の話。現代における宗教とは何か。
★つまり、高校野球小説。宗教小説。そして家族小説と、一応のジャンルわけはできるが、全部、ちょっと異色なオリジナル小説を書いているのがこの作家。今後を非常に期待!

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