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2010年7月25日「Life 夏の1冊」未読メール特集5

「Life・夏の一冊」→ http://www.tbsradio.jp/life/20100725life_1/
の放送、外伝で読めなかったメール中からセレクトして照会する未読メール特集。
今回はこれにて完結です。

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中野区在住、45歳、独居中年、スターリング・エレファント

今回の《夏の一冊》というテーマ。学生時代は遥か昔に過ぎ去ったとは言え、
今でも確かにお盆休や年末年始、GWなどまとまった休みには、集中して
読書をしようという意欲は湧いてきます。

今度こそG=マルケスの『百年の孤独』新訳を読破だとか、
エンターテインメント小説の基本だからと、学生時代に古本市で買った
モンテ・クリスト伯』中央公論のハードカバーで三冊分を一気読みだとか、
若島正新訳による『ロリータ』をじっくり味わう、あるいはダシル・ハメットの
長編・短編まとめ読み、ついでにDVDで、ハメットに影響されたという大藪春彦
原作、岡本喜八監督の『暗黒街の対決』、さらにそれに影響された黒澤明の
『用心棒』、さらにさらにセルジオ・レオーネの『荒野の用心棒』も検証だ。

などと妄想は膨らみますが、雑事に追われていずれも果たしていません。
そういえば映画に目覚めた中学生時代、映画の原作を追いかけるという形で、
各出版社の文庫を読みだしました。だから、そういった映画原作やノベライズを
擁していた70年代後半の、ハヤカワ文庫、角川文庫、新潮文庫などが特に印象
に残っています。思えば、映画自体は観ていないのに、なぜか発作的にハヤカワ
文庫のスタインベック『エデンの東』全4冊を、中3の夏休みに読んだっけ。
全く内容覚えていませんが。

やはり映画原作で、中3の夏に読んだのがスティーヴン・キングの『シャイニング』。
地方では2年近く遅れてリバイバルされた映画『2001年宇宙の旅』に、ものすごい
ショックを受けた私は、このスタンリー・キューブリックという監督が次回作として
製作している『シャイニング』というホラー小説に興味を持ちました。
私の田舎の町には映画館はもちろん、書店も、図書館もなく、中学の図書室は
エンターテインメント系の小説など購入してくれません。かなり無理してハードカバー
版上下2冊(深町真理子訳、パシフィカ)を買いました。文庫の『2001年宇宙の旅
時計じかけのオレンジ』は読了して満足。『ロリータ』『バリーリンドン』の原作も
文庫になっていましたが、非SFなのでそちらにはいきませんでした。

今の若い人たちにとってスティーヴン・キングという作家はどう映るのでしょう。
子供たちの苦いイニシエーションもの映画『スタンドバイ・ミー』の原作者か。
ショーシャンクの空に』、『グリーンマイル』という刑務所を舞台にした感動作の
原作者か。もしくは同じフランク・ダラボン監督の手になる、最悪にダウナーな気分に
落ち込む極限ホラー『ミスト』の原作者。もしくは宮部みゆきや村上春樹がリスペクト
する、超絶のエンターテインメント作家。

80年前後のキングは、すでにアメリカでは押しも押されぬホラーの超ベストセラー
作家になって次々作品を発表していましたが、日本ではなかなか翻訳が進まず、
79年当時出版されていたのは超能力少女もの『キャリー』、現代ヴァンパイアもの
呪われた町』、そして『シャイニング』の3作のみ。その後も遅々として進まず
ファイアースターター』、『クージョ』が出たのは83年以降。
白石朗訳で、あまりタイムラグもなく短編・長編が出ている今からは、
考えられない飢餓状態だったのです。

『シャイニング』はアルコール依存症という爆弾を抱えた売れない作家、
ジャックがつなぎの仕事として、コロラドの山頂にあるシーズンオフのホテルに
管理人として雇われるところから始まります。妻と5歳になる息子ダニーとともに、
家族だけでひと冬を隔絶された状態で過ごさなければならない。
だが、そのホテルは忌まわしい殺人事件を呼び込む、幽霊屋敷だった。
ホテルに巣食う邪悪な存在は、テレパシー能力を持った幼いダニーを取り込もうと、
禍々しい攻撃を加えてくる...。
古典的なゴシックホラー、幽霊屋敷ものを現代的な感覚で甦らせたと言われる本作
ですが、当時中学生だった私には、恐怖描写よりジャックが蝕まれている
アルコール依存症、そのせいで若い妻や幼い息子に対してふるう暴力、そんな状況
の中、持って生まれたテレパシー能力のせいでイヤでも汚い現実や大人の本性を
知ってしまい、孤独と混乱に耐えているダニーと、家族が直面するさまざまな問題が
印象に残りました。

70年代当時の日本ではまだアルコール依存症、ドメスティックバイオレンスなどは
重大な社会問題として認識されておらず、近年になってそれらが取りざたされるたび
に『シャイニング』を思い出したものです。これは作家としてなかなか認められず、
高校教師やボイラーマンなど、他の仕事で糊口をしのぎながら、うっ屈を抱えていた
キング自身の体験が反映されているとか。しかし、さまざまな社会問題や時代の
空気、要素をホラーという枠に落とし込み、非常に饒舌な文体で怒涛のストーリー
テリングを展開する本作、正直怖くはないが、とにかく面白い。
しかもこれを書き上げたとき、キング28歳というんですから。

自分を認めない世間へのうっ屈を抱えた人間、アルコール依存症、DV。
それらの要素も含め、今読んでも古びていないと思います。
むしろ今の日本でこそ、より深く実感できるかも知れません。
ゾーっとする怖さではありませんが、この猛暑の中、雪に閉ざされた山という
シチュエーションを想像して涼むのも一興でしょう。
それから、よしもとばななの『キッチン』の冒頭、ひと冬を越えることも可能な大きな
冷蔵庫というフレーズ、本作に対するオマージュだと思うんですが。

なお、パンパンに期待に膨らんでいた、キューブリックの映画版は81年末の
正月映画として公開されましたが、これにはがっかりしました。
初めてスティディカムを使用した独特の浮遊感とスピードに満ちた映像や、
いくつかの恐怖描写は印象に残るのですが、エンターテインメントとしては全く不発。
邪悪なものに取り込まれるアルコホリックのジャック・ニコルソンに物語が偏り過ぎ。
なにより、ダニーと同じく超能力を持ち、彼のいわば父親代わりとして危機を救って
くれる黒人のコック、ハロランの扱いがひどすぎる。

まあ、『シャイニング』はイマイチでしたが、キューブリックに対する畏敬の念は今も
変わりません。ちょっと頑張って新訳の『ロリータ』『時計じかけのオレンジ』を読んで
みましょうか。あ、それから『シャイニング』のオープニングの山道を滑るように進む
空撮が『ブレードランナー』に流用されているのはご存知ですか?
分厚い『メイキング・オブ・ブレードランナー』という本がありまして・・・。


膨大な参考資料↓




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