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【映画評】宇多丸、映画『シング・ストリート 未来へのうた』を語る!(2016.7.23放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル
「映画館では、今も新作映画が公開されている。
一体、誰が映画を見張るのか?
一体、誰が映画をウォッチするのか?
映画ウォッチ超人、“シネマンディアス”宇多丸がいま立ち上がる――
その名も、週刊映画時評ムービーウォッチメン!」

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宇多丸、映画『シング・ストリート 未来への歌』を語る! by「週刊映画時評ムービーウォッチメン」(2016.7.23放送)

宇多丸:
今夜扱う映画は先週「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して当たったこの映画……『シング・ストリート 未来へのうた』!

(BGM: Adam Levine『Go Now』が流れる)

『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』で注目を集めたジョン・カーニー監督の自伝的エピソードを交えた青春ドラマ。好きな女の子を振り向かせるためにバンドを組んだ少年の恋と友情を、80年代のブリティッシュサウンドに乗せて描く。主人公を演じるのは数千人のオーディションで選ばれたフェルディア・ウォルシュ=ピーロ。演技経験なしだったということなんですけどね。僕はこの人がちょっと、小学校の時のワリイシくんっていう友達にちょっと似ていてね。そこもね他人とは思えないあたりでしたけどね……。

もう、この『シング・ストリート』を見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールなどでいただいております。ありがとうございます。感想ね、メールの量は、「普通」。でも、公開館数はそんなに多くないですからね。むしろ多めなのかもしれませんけどね。6割が絶賛、3割がダメ、1割が惜しいという感想の割合でございました。褒める人は「今年ベスト」「生涯忘れられない1本になった」「サントラを買って毎日聞いている」などと熱狂している人が多かった。中には、3日間で8回見たという強者も。反対に否定的な意見の人は、「音楽が女のためのツールになっている。これでは音楽への情熱が伝わらない」とか「ご都合主義が多く、登場人物たちの掘り下げも甘い」といった声。また、「80年代のダブリンが舞台でU2が出てこないのはおかしい」という意見などもございました。代表的なところをご紹介いたしましょう……。

(メール紹介〜中略)

……はい。『シング・ストリート 未来へのうた』、私もヒューマントラストシネマ有楽町で2度見てまいりまして。どちらも満席。本当、満席でしたね。で、さっきの(投稿メールにもあった)非常にいい雰囲気っていう。まあちょっとね、僕、さっきのオープニングトークでもバレちゃってると思いますけども、まあ、あまりにもツボすぎて。ドンバマリしてしおりまして。見ていても、映画館で身体が動き出すのを止められなくて。そしたら、隣のおばさんもこうやって体が揺れていて、なんか、「いいな!」っていう感じがちょっとありましたけども。

とにかくこの映画ですね、ピンと来なかった人がいるのもしょうがないけど、本編が終わってさ、パッとブラックアウトして。で、エンドクレジットで「Written and Directed Jhon Carney」ってクレジットが出る直前に、「全ての兄弟たちに捧ぐ」っていう字幕が出るんですけど、これ出た時に、「そう! まさに!」っていう。要は、ジョン・カーニーさん。半自伝的な話だっていう本作なんですけど、これは僕がまさにそうだけど、見ていて「そうそうそうそうそう! 俺もそんな感じだった。こんなところ、あった。こんな感じ、あった!」っていうまさに、<兄弟>。世界中にそういう兄弟が無数にいるっていう。つまるところ要は、「まるでこれ、俺の映画みたいだな。俺のための映画みたいだな」って思っているやつが世界に無数にいる。そういう1本なんじゃないかと思うわけですよね。

で、特に僕はね、やっぱり本当に主人公……たぶんジョン・カーニーさんとか主人公と、完全に同世代。僕、主人公のたぶん1個上ですね。85年に彼は15才だから。僕は16才ですから1個上なんですけど、本当に同じような音楽を聞き、同じようなファッションやカルチャーに憧れて育ったティーンエージャーだったので、本当に本当に同じなんですよ。マジで世代が。たとえばね、最初にハマるのがデュラン・デュランっていうね。ここも完全に同じですし。ただこれ、85年だったらデュラン・デュランでビデオがいっぱい流れているのは『Rio』じゃねえだろうな、とかね。もうパワーステーションとかアーケイディアの時代に入っていると思うんで。85年なら『The Wild Boys』とかそんな感じかな? もうすっかり大物になっていたけど、デュラン・デュランは。まあ、そういうのはあるけどさ。でも、入り口がデュラン・デュランは完全に同じだし。

で、「自分たちでも音楽やろうぜ! バンドとか学園祭に向けてなんかやろうぜ!」みたいになった時、当然のように、プロモーションビデオ的な映像をセットで考えるっていうあたりの、この80’s、80年代ならではの。もう当然、映像でしょ。僕もやっぱり映像の、ミュージックビデオの監督になりたかったので、そういうのを撮ったりしたわけですよ。とか、あと服を買う金とかないから、家にある手持ちの服を工夫してなんとかそれ風に見せる、ああいう感じとか。しかも、あんなに荒くれじゃないけど、非常に抑圧的な先生がいるような厳しい男子校。で、その男子校の中の、なんて言うのかな? 暴力的な抑圧構造みたいなのも含めての男子校イズム。

それこそ僕、先生にものすごい理不尽な理由で自分の主張みたいな……主張ってほどの主張じゃないんだけど、それを本当にあの主人公みたいな、ものすごい理不尽な暴力で抑えつけられて。そう。だから1人だけ……「佐々木、なんで遅れたんだ?」って授業してる先生が聞くんだけど、俺が異常な、泣きはらしてこうやって教室に入ってきて、ドスッ!って座って。授業の先生もそれ以上追求しないという事件が。あれを思い出したんですけども。本当に、「ああっ、この野郎!」って(自分も同じような悔しい思いしたのを思い出した)。で、アイルランドのダブリンと日本の東京っていう違いはあるけど、要はポップカルチャーを通じて、「ここではないどこか」への憧憬っていうのを抱きつつ、それと自分を取り巻く現実の環境とのギャップ、乖離に何度も打ちのめされるというその感じ。要は非常に普遍的な青春の構造だと思いますけども。まあ、同じだったよ。すっげー似てるよ、やっぱ!っていう風に思いました。

ということで、ちょっと僕は本当に個人的に全てがツボにハマりすぎて……というところが本当に大きい本作でございました。脚本・監督のジョン・カーニーさん。さっきも言ったように、半自伝的っていうぐらいで、アイルランド ダブリンの出身で。90年代前半にはザ・フレイムス(The Frames)っていうロックグループのベーシストとして普通に活躍して。そしてそのグループのビデオとかを撮っていたりするような人。なので、まあ要は本作の主人公があのまま、映画の終わった後にロンドンで本当にプロのミュージシャンになったみたいな、そういうようなキャリアを歩んでいるんだけど。で、映画を撮るようになって。日本に入ってきたのはたぶんVHSでしかリリースされていないキリアン・マーフィー主演の『オン・エッジ 19歳のカルテ』っていう、ちょっと自傷癖のある青年の映画があって。これ、2001年のがあるんだけど。

しかしまあ、なんて言っても名前を上げたのは2007年『ONCE ダブリンの街角で』という、このコーナーでは当たらなかったけども(※宇多丸追記:番組開始1年目なのでまだ定期的な映画時評コーナーはやっていない時期でしたね)。それで一気に名前を上げたという。僕も後から見たんだけど、非常に超低予算で、公開規模も最初は小さかったんだけど口コミで大ヒットしたというね。で、最終的にはアカデミー歌曲賞までとっちゃったというすさまじい……まあ、これで一気にジョン・カーニーは名前を上げて。その次に1本ね、『Zonad』っていうコメディーを撮って、これは見れていないんだけど、あんまり評判が良くなかったのが1個あってからの、さらに次。2013年『はじまりのうた』。『ONCE ダブリンの街角で』と『はじまりのうた』、この2本、どちらも要は音楽映画で。それもこの上なくチャーミングな、もう愛おしい!っていうような音楽映画の傑作2本で、圧倒的にこれまで知られてきた人、ジョン・カーニーさんですね。

で、音楽映画……音楽を題材にした青春映画は他にもありますけども、ジョン・カーニーさんが本当に特徴的だなと思うのは、今回の『シング・ストリート』も完全にそうなんだけど、こういうことですね。「こういうのはどうかな?」ってポロ〜ン♪って弾いて「メロディ」が立ち上がる瞬間。あるいは、言葉が「詩」になる瞬間。そして、その2つが合わさって、「歌」がフッと立ち上がる瞬間。さらにはそこに楽器が重なっていって、「演奏」になっていく瞬間、そのプロセス。要は、音楽が立ち上がって生まれて、世界がその音楽が生まれたことによって表情を変えるっていう。ある意味、この世にある中でもものすごい尊い、美しい瞬間っていうのを、いつもものすごく繊細に、丁寧に、そこは絶対に確実に捉えるようにやっているのが、ジョン・カーニーの音楽映画だと思うんだけど。

これは間違いなく、音楽を奏でるその瞬間の喜びを知っている人の視点ですよね。やっぱりミュージシャンだったことがある人の映画だなと思うんだけど。なので、作品のトーンこそ軽快だけど。まあ、基本的にコミカルな感じで軽快な作品だったりするんだけど。軽い感じのトーンだったりするんだけど。はっきり言って、描こうとしていることはとても大事なことをいつも言っている人だと思います。大げさな言い方をすれば、音楽に代表される「表現」とか、「アート」の価値っていうことですよね。いつでもその話をしている。実はとっても大事な話を、少なくとも音楽3作、今回の『シング・ストリート』を含む音楽映画3作では共通して語っている人ではないかという風に思います。ジョン・カーニーさん。

で、特に今回の『シング・ストリート』の場合ですね、主人公たちがほぼゼロからスタートのアマチュアバンドの話のため……『ONCE』も『はじまりのうた』もそれなりにちゃんとスキルのあるミュージシャンっていうのが主人公だったけど、今回は本当にゼロからスタートのアマチュアバンドのため、さっき言った音楽が生まれる瞬間っていうのがより瑞々しいっていうか、初々しいっていうか。そういうのになっているのが今回のさらに特徴で。たとえば、曲を作っている途中でね、こう曲を主人公と相方の2人で……ああいう音楽にちょっと詳しい、楽器とかちょっと出来て他より詳しいやつがいて。そいつがバンドの音楽的参謀になったりするっていうのは高校とかでもあると思うんだけどさ。

曲を作っていて、「声を録ろうぜ。じゃあちょっとデモテープを録ろうぜ」「ちょっと、待って待って」っつって。掃除機のパイプを持って、「こうやってやると『ラジオスターの悲劇』みたいな感じの声になってかっこいいんだぜ」みたいな。で、曲を作っている途中で要はこういうことですよ。「おっ? なんかいま、俺たち本物っぽくなってね?」みたいな。「えっ、ちょっといま一瞬……あ、“っぽく”ね? “っぽく”ね?」みたいになる瞬間。

ちょうどあれですよね。『桐島、部活やめるってよ』の最後の方で神木隆之介演じる映画部のあいつがさ、「なんでヘボい映画なんか撮ってるの?」って聞かれて、「いや、ヘボいんだけど、自分が作っているこの映画が自分たちの好きな映画とつながっている。それと同じものなんだっていう気持ちに一瞬だけでもなれるんだよね」っていうことを言うじゃないですか。あれと同じ感じですよ。デモテープとかを作ったことがある人なら絶対にわかると思うんだけど。こう、たとえば声とかを重ねると、「あれあれ? “っぽく”ね? “っぽく”ね?」みたいな。本当に、「あれっ? 本物っぽくない?」ってなる瞬間。あの瞬間のときめきとか、あっ!ってアガる瞬間みたいなのを今回は特にしっかり捉えてみせるという。これが本当に素晴らしいあたりじゃないかと思います。

で、これはもう僕が根っからの80’sポップ大好き人間だからっていうのもあるとは思います。「80’sの音楽像があまり好きじゃないから、劇中の音楽があまりいいと思えなくて……」っていうような意見もネット上で見たりしたんですけど、まあ、そりゃしょうがない。僕は劇中で主人公たちがその時その時でいちばん好きなバンドや曲の影響を……まあ、影響まる出しで作るそのオリジナルナンバーの数々。シング・ストリートという劇中のバンドがオリジナルナンバーを作るんだけど、僕的にはあらゆる意味で本当にこの曲が最高だと思っていてですね。

楽曲そのものの力、音楽そのものの力っていうのが映画全体の質を高めているっていうのは『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』、これも同様でしたけどね。『ONCE』なんか本当に素晴らしかったけども。本作の場合、そこにさらに主人公たちの拙さ、未熟さ、成長のプロセスっていうのが織り込まれている。要は、曲の変遷そのものがストーリーを物語ってもいるという、そういう構造になっている。しかも当然、さっきもオープニングトークでも言いましたけども、彼が影響を受けたバンドの特徴みたいなものも曲に適度に織り込みつつ、だけど、なんて言うのかな、単なるパロディには終わらないようにして、という。要は、80’sポップなるものの本質をしっかり、本当に理解している人じゃないとちょっとこれ、作れないわけです。劇中の曲っていうのが。という、難しい要求。

ここで監督ジョン・カーニーさんが劇中曲、さっき言ったような微妙な、難しいバランスを含めて作れる人ということで呼んできたのが、本日オープニングトークでも話して、曲もかけた通り、1987年の歴史的名曲『Mary’s Prayer』で知られるダニー・ウィルソンというグループの中心人物、ゲイリー・クラークさん。ゲイリー・クラークをここで呼んでくるジョン・カーニー!というね。僕はそこでまた、「おい、兄弟! わかってんな! お前、わかってんね、本当ね!」っていうね。本当にこの人選が、わかってらっしゃりすぎだと思います。もちろん僕ね、映画館。ヒューマントラストシネマ有楽町で見て、バッと終わって席を立って、表に出てきてそのまま売店に直行して「サントラください!」ってもうね、食い気味でね、ササッと買いましたけどね。

次、僕80’sナイトでDJやる時もこの『シング・ストリート』の曲を……もちろんいま、それ風に作った曲なんだけど、普通に80’sポップに混ぜてかけようかな? と思っているぐらいなんですけど。さっきも言ったけど、映画館の中で本当に座席で身体が動き出すのを止められなかったぐらいです。でも、横のおばさんもこうやってちょっと揺れていてっていう、そんぐらい。とにかくですね、このジョン・カーニー、ゲイリー・クラークさん共作によるシング・ストリート。劇中のバンドのオリジナル楽曲が、僕は本作のキモだという風に思うんですよ。これ自体がもう物語を語っているという風に思いますので、はい! ここから先はシング・ストリートの曲をガンガン聞きながら、「あそこが良かった、ここが良かった」だの、キャッキャキャッキャはしゃぐだけの時間帯に入りまーす。

じゃあまずはね、こちらをお聞きください。彼らが最初に作るオリジナル曲です。デュラン・デュラン。いわゆるニューロマンティック・ブームという、こちらに影響を受けたと思しき、『The Riddle of the Model(モデルの謎)』をお聞きください。

(BGM: Sing Street『The Riddle of the Model』が流れる)

まあ、デュラン・デュランの曲のテーマ的に言えば『Girls On Film』とかね、あのへんのイメージですよね。この、ちょっとペナペナファンク感というか。白人のやるペナペナファンク感、これがまたニューウェーブな感じでいいですね。でもまあね、すでにそれっぽくなっているからいいですけども。ちょっと、聞きましょうかね。これ、後から音なしのクラウドで聞くとよくわかんない時間帯になっていると思いますけども。

これ、ビデオを同時にね、彼らが撮っているんですけど。たとえば、鏡越しになんかやったりとか。あとね、目を見開いてカメラの方を見るあの表情の作り方とか、ものすごい80’sっぽい。あと、ここがいいですよね。この後。「The Riddle of the Model♪」。この間奏でこれね、この取って付けたようなアジアンメロディ(笑)。関係ねえだろ?っていうね。で、最後のところでね、ベーシストの男の子が持ってきたドラキュラ付け歯みたいなののアップになって。最後だけ急に『スリラー』にしてどうする?っていうね。あのあたりもね、かわいらしいところでございました。

さあ、じゃあ続きまして、こちらをお聞きください。『Up』という曲でございます。

(BGM: Sing Street『Up』が流れる)

こちらですね、主人公のコナーくん。まあ、コナーくんは歌詞を書く。で、エーモンくんっていうのが楽器をいろいろ弾ける人で。2人で一緒に曲を作っているわけですけど。で、コナーくんは彼女との関係で非常にコンプレックスも高まっていて。そのモヤモヤを曲にぶつけると。で、この2人で最初は曲を作っているんだけど、カメラが非常に自然な感じでグーッと動いていく。最初は夜に曲作りをしているわけですね。グーッとカメラが動いていくと、「ここでキーボードを入れたらいいね」みたなところでパッと見ると、要はキーボードのあの黒人の男の子がいたりとか。で、時間も夜から昼に変わって。いつの間にか、要は1カットですごく自然に撮っている風なのに、一気に時間が飛んでいるという、ちょっとトリッキーな撮り方をしているわけですね。

つまり、この映画はジョン・カーニーさん、本当にこういうところがあるんだけど。非常に撮り方そのものはドキュメンタリックというか、自然主義的に撮ってる風に見えるんですよ。自然な感じに撮ってる風に見えるんだけど、時にこうやってフッと、リアルから浮遊というか、飛躍する瞬間っていうのがジョン・カーニー映画はちょいちょい、ポンポン放り込まれてきて。そこが僕、すごくキモだと。ジョン・カーニーさん、自然主義風に見せておいてスッと現実から遊離するみたいなのが、どんどん上手くなってる。今回の『シング・ストリート』もそこがすごく上手いなという風に思ったあたりです。

で、だんだん、要するにメンバーが少しずつ加わっていく高揚感みたいなのもこの1カットで表現されて。で、ちょっとカットが変わるんだけど、そこにエーモンくんのお母さんがおやつかなんかを持ってきて、でもあの家庭だって相当モメている家庭なんだけど、お母さんが入ってきておやつを置いて。で、ちょっと体をこう動かして……ああいうちょっとしたディテール、この映画はね、そういうちょっとしたディテールに宿る、「ああ、人生のこういう瞬間が本当に幸せだ!」っていう。そこでポロッときちゃうようなところがあるんですよね。

はい。じゃあ次の曲に行きましょうかね。『A Beautiful Sea』。これをお聞きください。どうぞ。

(BGM: Sing Street『A Beautiful Sea』が流れる)

こちらは、主人公がまたね、すーぐ影響を受けて。もうファッションからなにから、音楽性からなにから全部変わっちゃうという。これはザ・キュアーのね、『In Between Days』だっけ? まあ、名曲ですよね。あれに影響を受けて。ちょっとキュアー風のね、ちょっとゴスな感じになって海辺でビデオを撮るというね。で、このビデオを撮っているところの、これをちょっと聞いてください。この途中のところで当て振りをしてるんだけど。楽器を弾いているふりをしてやっているんだけど、途中でクラップのところで演奏をみんなやめて振りを合わせて、パンパンッ!ってやる。ここで、ちょっと聞いてくださいね。こうね……パンパンッ! かわいい〜! かわいいよ〜! かわいい! かわええ〜! かわええのう。80’sのビデオによくあったのう、こういうのな。演奏、止まるやないか!っていうね(笑)。ああいうのがいいですよね。

あと、言及はされていなかったですけど、人魚が海に飛び込んで。で、それを追いかけて恋人が飛び込んで……っていうあの彼らが撮っているビデオの話は、あれは明らかにロン・ハワード『スプラッシュ』イズム。『スプラッシュ』オマージュという感じがあるんじゃないですかね。で、あのね、水面の2人を捉える荒っぽいビデオの映像が、なんて美しい瞬間なんだ! ここでやっぱりボロボロ!っていうね。人生のこういう最高の瞬間だな!っていうところでバーッと泣いてしまうというのがありますね。

ああ、ヤバい。時間がない! じゃあ、続いてはこちら行こう!

(BGM: Sing Street『Drive It Like You Stole It』が流れる)

ホール・アンド・オーツの『Maneater』をね、聞いて。これ、かっこいいじゃんってなったらすぐに『Maneater』風のビートとベースで曲を作るというこの軽薄さ。でも、僕ね、この『Drive It Like You Stole It』という曲ですけど。これ、シング・ストリートの曲で僕、いちばん好きかもしれないですね。はい。で、この曲を演奏する場面。これもミュージックビデオを撮っているんだけど、もうあまりにも、理想と現実のギャップが実はいちばん離れてしまう場面なんですね。で、そこで、理想と現実がいちばん乖離するところでいちばん妄想として完成度が高い映像がここで流れるという。この、要は一見明るい曲調だし、明るいミュージックビデオ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、50’s風の映像だけど、それがいかに悲しい現実からの必死の逃避かっていうのがあるから、やっぱり切ないんですよね。これがまさにハッピー・サッドというか、そういう感情になってくるわけですね。これは曲、素晴らしい。この場面はぜひ、映画館で見てくださいね。

で、このあたりになると、「どこが素人バンドやねん!」っていうぐらいのレベルに演奏がなってきているんですが、僕、これはね、ちょっとうがった見方かもしれないけど、「主人公コナーには、こう聞こえている」っていうところはあるんだと思う。つまりやっぱり一見自然主義的に見えて、実はリアルから微妙に浮遊するポイントがいくつもあるっていうのがこの映画のミソだと思うんです。それこそラスト、さっきね、最初の方で流しましたけど、『Go Now』という主題歌が、マルーン5のアダム・レヴィーンの曲が流れるラストで、ちょっとやっぱりリアリティのラインが変わるじゃないですか。ラストのラストで。なので、ただの前途洋々たるハッピーエンド……なのか?っていうバランスに落とし込んでいるあたり、このへんがやっぱり絶妙だなという風に思います。

ああ、もう時間がないね。クライマックス、学期末ディスコパーティーでのライブね。たとえば『Girls』っていう曲がありますけども。この『Girls』の歌詞は前半での女教師との会話が伏線になっているとか。

(BGM: Sing Street『Girls』が流れる)

はい、これ『Girls』のイントロね。あるいはその次の『Brown Shoes』という曲。これこそ最初、『モデルの謎(The Riddle of the Model)』っていう曲では自分でも意味がよくわかんないで雰囲気で歌詞を書いていたようなコナーくんが、最終的に完全に自分の歌っていうのを確立する歌だからこそ感動的だし。もう歌詞! 特に最後のサビに行く手前のブリッジのところの歌詞でもう、「殺す気か!」と思いましたけどね。僕、もう泣き死にするかと思いましたけど。本当に。ということです。演技経験なしな主役のあの子とか含めて、シング・ストリートの面々を含めキャスティング、演技など本当に申し分ないと思います。

特に素晴らしいのはやっぱりお兄さん役のジャック・レイナーさん。主人公にとってのメンターだけど、社会的にはルーザー的な。「俺だって昔はこうだったんだ」っていう、ちょっと『ヤング・ゼネレーション』のデニス・クエイドのマイク的な役回りでもあるし。誰よりも彼がお父さんとお母さんの諍いに傷ついてきたっていうのもありますし。彼がお母さんの背中を見つめて語るシーンとかも本当、良かったですしね。あえて、本当にあえて言えば、もうちょっとメンバー各人のキャラ。ちょっとしたセリフとかでいいから、もうちょっと背景を掘り下げたりしてくれれば、もっと完璧だったと思いますけどね。それもこれも、現状すでに「あいつらにまた会いてえ!」感がビンビンに出ちゃっているからだと思います。

ということでね、音楽を題材にした青春映画、傑作はいっぱいあります。アイルランドが舞台というだけでもですね、『ザ・コミットメンツ』とかね。『ザ・コミットメンツ』に出ていた人が主人公のお母さん役だったりしてましたけども。あと、近年でもアイルランドを舞台にした傑作『FRANK -フランク-』。『FRANK -フランク-』はある意味、(テーマ的に)本作の真裏(に当たる作品)でしょうからね。まあ、『シング・ストリート』はこのジャンルの新たな傑作として歴史に残っていくのは間違いないと思います。ダンス有り上映とかしてくれないかな? ぜひぜひ、劇場で見た方がいいですよ。僕は大好きです。大好きだっ!

(ガチャ回しパート中略 〜 来週の課題映画は『葛城事件』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

【オマケ:オープニングトーク起こし】

さあ、ここで1曲ね、曲をお聞きいただきたいと思います。っていうのは、この後、ムービーウォッチメンで扱う映画『シング・ストリート』をやりますけども。『シング・ストリート』、80年代のアイルランド・ダブリンが舞台なわけですけど。非常に80’sポップ……私も80’sポップDJって自分でDJをやっていたりしますけど。まさに私の趣味ドンピシャなところの時代の音楽というか。で、それに影響を受けた主人公たちのバンドのオリジナルとかがかかるというね、そういう映画なんですけども。ちょっと今日のムービーウォッチメンの予習として、ぜひ1曲聞いていただきたい。というのは、その主人公たちのバンド、シング・ストリートが演奏する曲の作詞・作曲……まあ、監督・脚本のジョン・カーニーさんと一緒に曲を手がけているのはですね、ジョン・カーニーさんが呼んできたわけです。

要は、80’s感が本質的にわかっていて、なおかつ主人公たちの……まあ素人バンドなわけですから。で、素人バンドがいろんなバンドの影響を受けて、少しずつ変化していく。その拙さとか、そしてその影響を受けるバンドの元のエッセンスもわかっていて。で、なおかつだんだん彼らが成長していくっていうのも曲に込められるという、実は非常に難しいハードルなわけですけど、それをクリアできる人物としてゲイリー・クラークさんという方をジョン・カーニーさんは呼んできた。で、今回僕、『シング・ストリート』のことを何も知らなかったんだけど、この番組のディレクターの小荒井さんから「これ、ゲイリー・クラークがやってるんですよ。あのダニー・ウィルソンの……」「マジか何っ!?」。で、もう一気に「『シング・ストリート』、見なきゃ!」っていう感じになったんですけど。

ダニー・ウィルソンというのはですね、そのゲイリー・クラークさんが所属して、リーダーとして引っ張っていたグループ名ですね。人の名前みたいですけど、ダニー・ウィルソン。スコットランドのグループです。1980年代末に出てきて。で、結局そこまではブレイクはしなかった。当時はね、「イギリスのスティーリー・ダン」なんて。劇中でもね、「スティーリー・ダンかよ?」なんて言ってたけど。「スティーリー・ダンか?」なんていうぐらい曲も素晴らしいし、演奏力もあるというので。非常に作品は素晴らしかったんだけど、ブレイクしなかったグループ、ダニー・ウィルソン。アルバム2枚出して解散しちゃったのかな?

そのダニー・ウィルソンの1987年のヒット曲。僕、DJでも必ずかける。しかも、この曲をかけると80’sのことなんか知らない若い子も、もうあまりにいい曲なので、「なんすか、この曲!? 本っ当にいい曲ですね!」って、みんなもういきなり大ファンになっちゃう素晴らしい曲、お聞きください。ちなみにですね、ああ、もう! この話をすると長くなるな。この曲のビデオも素晴らしくて……ビデオの話は後でするか。まあいいや。じゃあ、お聞きください。ダニー・ウィルソン、1987年。小ヒットぐらいはしたのかな? 素晴らしい曲です。お聞きください。『Mary’s Prayer』。

(Danny Wilson『Mary’s Prayer』が流れる)

うーん、いい曲やね。こっからの展開もまた泣けるんですけどね。はい。ダニー・ウィルソンの代表曲『Mary’s Prayer』をお聞きいただいております。本日の『シング・ストリート』、ムービーウォッチメンで扱う映画のオリジナル曲を手がけているゲイリー・クラークさんの所属していたグループです。ちなみに私、宇多丸少年ね。1987年ですから18才、高3か。まあ、絶賛受験中ですけども、音楽を聞いたり、全然夜遊びに行っちゃったりしてたんですけど。世界的にヒットしたとかじゃないんだけど、なんで聞いてたかと言えば、当然またしてもご多分に漏れず、ピーター・バラカンさんがTBSの深夜にやっていた『ポッパーズMTV』というミュージックビデオを流す番組。僕はもう本当に大好きな番組で。まあ、そこで紹介されていて、「なんちゅういい曲なんじゃ!」と。

で、曲だけじゃなくて、今日の『シング・ストリート』、非常に大きなファクターとして出てくる、やっぱり80年代と言えばミュージックビデオの時代なわけですけども。これ、ビデオがまた素晴らしくて。で、これは作っている人が、当時ですね、ミュージックビデオに何個か関わっていたハントリー/ミュアーというですね、ドイツ人なのかね、名前からすると。スー・ハントリーさんとドナ・ミュアーさんという方のユニット。男女というか、夫婦なのかな? の、ユニットで。まあ、イラストとかコラージュみたいなのとパステル調のあれを混ぜたような、そういうタッチの人たち。ハントリー/ミュアーというユニットがいて。

たとえば、スティングの『Bring on the Night / When the World Is Running Down』。『ブルー・タートルの夢』のライブ盤の時のスティングのビデオの、ライブ映像なんだけどそこにそういうコラージュというか、写真とパステルを重ねたようなビデオを撮られていたりとか。あと、パット・メセニーの『Yolanda, You Learn』っていう、これも僕、大好きで。よくDJでもかけたりするんですけど。まあ、当然インストなんだけど。それのビデオとかもたぶんこの人たちが手がけていて。その同じ人たちがこの『Mary’s Prayer』のビデオも、本人たちの演奏と彼らの絵のイラストのタッチが重なるような感じで。すっごいまたね、ビデオが素晴らしいので、ぜひ、ネット上には転がっていると思いますので、そちらも見ていただけると。で、なおかつこういう素晴らしい曲を作った人がオリジナル曲を提供しているのが『シング・ストリート』なのだというあたり、踏まえていただけるとより味わい深いのではないでしょうか。ムービーウォッチメン、この後10時半ごろからお送りしたいと思います。