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【映画評書き起こし】宇多丸、『ナイスガイズ!』を語る!(2017.3.4放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

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宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーです。今夜扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『ナイスガイズ!』

(BGM:テーマ曲が流れる)

ライアン・ゴズリングとラッセル・クロウが共演し、『アイアンマン3』のシェーン・ブラック監督がメガホンを取ったバディ・ムービー。シングルファーザーで酒浸りの私立探偵マーチと腕っ節の強い示談屋ヒーリー。2人が失踪した少女の捜索に乗り出すと、やがて思いもよらない巨大な陰謀が顔をのぞかせる……ということでございます。

ということで、一部好事家の間で非常に「面白い、面白い」と評判になっておりました『ナイスガイズ!』。これを見たよというリスナーのみなさま、通称<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)メール、いただいております。ありがとうございます。メールの量は、ちょっと少なめではございます。公開規模が少なめではございますので、しょうがないあたりもありますが、ただし賛否で言うと、「圧倒的高評価!」ということでございます。

「とにかく笑った」「いまライアン・ゴズリングを見るなら『ラ・ラ・ランド』よりもこっち」「ライアン・ゴズリングの娘役、アンガーリー・ライスがめちゃくちゃかわいい」「ギャグは不謹慎だが、主人公たちの行動にはモラルがあり、笑えるだけじゃない」など多くの人が映画を楽しんだ様子。否定的意見はほとんど見られなかった、と。

代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「捨てアカウント」さん。「『ナイスガイズ』、公開初日に見てきました。私の今作の評価を申し上げますと、最高です! 久々にずっと映画の世界に浸っていたいと思わせる映画で、早くも私の今年ベスト級です。冒頭のシーンからこの作品にはやられっぱなしでした……」。あ、このあと、ちょっと後ほど僕もこの話をしたいんで、この話はちょっと置いておきますね。「……今作はしっかり笑えるコメディーでありながら、傷ついた男たちが良心を貫くことを描く映画だったのです」と。それがオープニングのあるシーンにもちゃんと現れていますよ、というご指摘がありました。

「……ラッセル・クロウとキム・ベイシンガーの共演ということで、『L.A.コンフィデンシャル』を思い起こしますが、私がこの映画を見て受けた印象も、監督が脚本をした『リーサル・ウェポン』ではなく、『L.A.コンフィデンシャル』や『チャイナタウン』のような映画でした」。まあ、ノワールですからね。「……単なる懐古主義的な70年代を舞台にした映画ではなく、コメディーアクションという新たなアプローチで『チャイナタウン』のような歪んだアメリカ社会を見事に描いた傑作だと思います」ということでございます。

一方、ダメだったという方。「ダニエルデイカイジュー」さん。「スター共演のバディ物ということでしたが、期待はずれでした。取ってつけたような展開とギャグが乗れませんでした」。たしかに、関係ないくだりが多いんですけどね(笑)。「……ギャグ満載で最初は笑っていたんですが、途中からギャグのシーンになると流れが完全に止まり、それが続いたのでムズムズし始め、最後には『こいつらが生きようが死のうがどうでもいいわ』となってしまいました。登場人物が見終わった後に、これからどうなるんだろう? と思えない映画は致命的だと思います。残念でした」という、乗れなかったという方でございます。

 

 

はい。ということでみなさん、メールありがとうございます。私も『ナイスガイズ!』、バルト9で2回、見てまいりました。当コーナーでは前作『アイアンマン3』を2013年5月18日に取り上げました、シェーン・ブラックさん。この名前ね、もし覚えてない方がいたら覚えて帰ってくださいね。シェーン・ブラックさんが、脚本・監督の最新作でございます。なんといっても有名なのは、先ほどメールにもありました脚本デビュー作『リーサル・ウェポン』(1987年)。以降は、たとえば『ラスト・ボーイスカウト』であるとか、『ラスト・アクション・ヒーロー』であるとか、『ロング・キス・グッドナイト』であるとか……並べるだけでなんとなく、連なるイメージが浮かぶと思いますけども(笑)。80年代後半から90年代にかけて、アメリカ製アクション映画の、ひとつの潮流を作った1人でございます。

 

まあ、大ざっぱに言えばこんな感じ……「とてつもなくバイオレントな事態にも、どこか不謹慎なユーモアが漂う」という。要は、“人を殺して捨てゼリフ”系譜の作品。で、そのユーモアを醸すというのを際立てるという意味でも、「バディ物」が多いですね。要するに、「凸凹コンビが、激しい戦闘の最中に、しょうもない言い合いをしている」とか、まあそんな感じを思い浮かべてください。こんな感じが彼の作風だという、そんな説明を『アイアンマン3』評の中でも私、いたしましたが。ちなみにこの方、それ以前から俳優としても活躍してらっしゃいまして。『プレデター』とかに出ていたんですけども。そのシェーン・ブラックさん、いまはですね、なんと2018年公開予定の、『プレデター』リブート作品の脚本・監督を手がけている。こちらも今回と同じく、ジョエル・シルバー製作となっておりますからね。

で、とにかくそのシェーン・ブラックさん。2005年に『キスキス,バンバン』という監督デビュー作がある。これはまあ、ロバート・ダウニー・Jrとヴァル・キルマー主演。ちなみに今回、映写技師の若者の役で出ている役者、ジャック・キルマーさんという方は、なんとヴァル・キルマーの息子だということですけどね。まあ、オフビートなノワール……まあ、さっき『チャイナタウン』とかいろいろ挙げていましたけども、「フィルム・ノワール」といういちジャンルがあって。それのコメディートーンな、ノワール・コメディー。で、LAが舞台で。で、チャラい男と無骨なタフガイのバディ物で。で、映画業界も絡んできて……と、いうことで、もう完全にこの『キスキス,バンバン』は、今回の『ナイスガイズ!』とも連続した世界と言っていい感じなんですけど。

とにかくその『キスキス,バンバン』で監督デビューしたこのシェーン・ブラックさん。この『キスキス,バンバン』でのロバート・ダウニー・Jrの好演が……実はこれが、後の2008年『アイアンマン』、トニー・スターク役への起用につながっている。ご存知の通り、本当にいまのマーベル・シネマティック・ユニバースの大成功の礎を築いたのは、まずこのロバート・ダウニー・Jr=トニー・スタークっていうキャスティングが非常にマジックを生んだということなんですけど。当初はやっぱり、ロバート・ダウニー・Jr……演技派で、しかもいろいろスキャンダルも起こした後でしたから、反対もあったのを、『アイアンマン』の監督ジョン・ファヴローが反対意見を押し切って起用したという。で、その大きなきっかけのひとつが、『キスキス,バンバン』のロバート・ダウニー・Jrだった、ということなんですよね。

ということで、そういう経緯があったからこそ、『アイアンマン3』でジョン・ファヴローが監督から降りた後を受けて、シェーン・ブラックさんが起用されたという。「そもそもトニー・スタークは、『キスキス,バンバン』のロバート・ダウニー・Jrだったんだから、そこを上手く演出したあの人を呼んでくればいいじゃん」という理屈。ということで、実際『アイアンマン3』は、どちらかと言うとトニー・スタークが生身でドッカンドッカン暴れまくる、90年代アクション的な色が非常に濃い一作となっていた、というあたりでございます。で、今回の最新作『ナイスガイズ!』。久々にジョエル・シルバー製作。もちろんね、『リーサル・ウェポン』以来のコンビでございますけども、ジョエル・シルバーの製作で。

まあ、こういうことかな? ちょいアナクロ風味なアクション物。で、しかもそれね、LAが舞台で。汚職とポルノ産業が絡んでくるような、さっきから言っているフィルム・ノワールであり。同時に、死さえ不謹慎に笑いのネタにするオフビートなコメディーでもあり。そして、チャラ男とタフガイの中年バディ物、ということに加えて、それこそ『ラスト・アクション・ヒーロー』とか『アイアンマン3』もそうでしたけど、「利発な子供相棒」っていう、そういう要素まで加わっている。要するに、これまでのシェーン・ブラックさんのフィルモグラフィーを並べてみた時に、彼の得意技が、全部入っているっていう。彼がいちばん好きで、いちばん得意なところが全部入っている。それは面白いに決まっているよね?っていう、そういう一作なわけですね。

で、まあ実際にどうだったのかというと……これはもう、私の好物じゃないわけがない、っていうことですね(笑)。もう、むちゃくちゃ面白いですよ、それは。言ってみれば、こういう感じですね。こちらもまあ、大きな意味で「ノワール」ジャンルだと思いますけども、トマス・ピンチョン原作、ポール・トーマス・アンダーソン監督『インヒアレント・ヴァイス』を、ものすごーくポップに料理すると、こういう風になるよと。ちなみに、ポール・トーマス・アンダーソン、彼の出世作『ブギーナイツ』(1997年)は、まさに今回の『ナイスガイズ!』と全く同じ時代、同じ時期、同じ世界の話ですよね。ポルノ業界の話でね。

で、まず今回の『ナイスガイズ!』。なにしろね、この映画が好きになった人みんながとりあえず持っていかれたところだろうけど、やっぱり、オープニングが素晴らしいですね。オープニング、最高! ある意味、この映画がその先に語っていくこと、その全ての要素がこのオープニングのシーン、一連の流れに全部集約して暗示されているという。非常に見事なオープニングシーンじゃないでしょうか。

まず、まだボロボロのままだった「HOLLYWOOD」っていう看板。あれは、1977年の頃には、まだまだボロボロのままだったんですね。それを、裏からこうやって(映してゆく)……要するに、あのボロボロなのを見ることで、「ああ、ちょっと前の話だな」って。

で、そのLAの夜景が映るんですけど、77年。まあなんかスモッグでモワ~ンとしているというね。当然それはその後の話とも関係してくるわけですけど。もちろんここ、時代設定と合わせるために、がっつりVFX、CGとかを、 いっぱい使ったショットではあるんだろうけど……でもこういう、街の全景の空撮。空から撮ったショットから、その中にある街中の一点にだんだんだんだんカメラが寄っていって始まるという、こういうオープニングショット。なんか最近あんまり無いっていうか。やっぱりその、なんかちょっと前までの映画感というか。僕は逆に、「ああ、そうだよな。こういうのが映画の始まりだよな」っていう感じがして。それだけでもちょっとうれしくなっちゃうっていう感じです。

で、どこにそのカメラが寄っていくか?っていうと、ある何の変哲もない家ですよね。犬ちゃんを飼っているような何の変哲もない家に寄っていくと、寝静まった両親のベッドの下から、ポルノ雑誌を盗み出して、1人でこっそりほくそ笑みながら見ているローティーンの少年が出てくると。すると……その少年がエロ写真をニヤニヤしながら見ていると、その背後。窓の向こうの崖から、自動車がボーンと飛び出すのが、この時点では音は聞こえないまま、観客だけには見えている、という絵面があって。で、少年がこうやって移動しかけたところで、一瞬後にその車がドーン! と家の中に突っ込んでくる、この一連の流れがあるんですけど。

まずね、この一連の流れのようにですね、要は少年がエロ本を読んでいる。その後ろの窓越しに、ずーっと少年の家よりは上の位置にある崖のところから車がボーンと来るんだけど、こういう風に、高低差のある空間の中で、何か、もしくは誰かが落っこちたり、落っこちてきたり。もしくは、その高低差の距離があった状態で、なにかやり取り……会話があったり、撃ち合いがあったりっていう。とにかくそういう、高低差のある空間で、落下を始め、その空間を生かした見せ場があるっていうのが、実はこの『ナイスガイズ!』っていう映画全体で、この後も何度も何度も繰り返し出てくるわけです。

なので、まずこの少年のところで、窓の向こう側からボーンってきてからの、車がここにゴーン!ってくるっていうその空間感覚みたいなのが、まずこの映画全体の空間感覚を暗示していると。シェーン・ブラック監督、これはたぶん得意技ってことだと思うんですね。高低差を生かしたアクションなり見せ場の作り方っていうのが。そういえば、『アイアンマン3』の屈指の名場面も、「落下」ですよね? もう、『アイアンマン3』っていうか、あれはMCU全体でも屈指の名場面でしたが。とにかく、高低差、そして落下、これが得意な監督だということはちょっと覚えていただきたい。で、その落ちてきたその車を、少年が見に行ってみると、なんとさっきまでグラビアでヌードを見ていたまさにその女が、事故によって服がね、バッとはだけてというか、脱げてしまって、ほぼ裸の姿で横たわっていると。

で、もちろんそれはもう、死にかけているわけですよね。死にかけているんだけど、死にかけている、でもその裸の女が……要は、さっきまで見ていた女が目の前に裸でいて。しかも、ちょっと謎めいたエロい言葉を言うんですね。これはまあ、実はその後の話の伏線になっているんですけども。要は、死にかけている人なのに、なにかこう、エロい感じが。つまり、非常に倒錯的な空気がここは醸し出される。まさにこれ、フィルム・ノワールですよね。たとえばその、『ハリウッド・バビロン』からJ・G・バラードの『クラッシュ』というこの流れに至るような……要は巨乳セクシー女優が交通事故に遭って、というような……そういう、ハリウッドの呪われた歴史の記憶も当然ここでは刺激されつつ。そこで彼女が口にする言葉は、さっきも言ったように全体の物語の謎解きのキーワードともなっている。

ずーっと見ていると、「ああ、最初に彼女が言った言葉は、これのことだったんだ」っていうのがわかるし。さらにその後、少年が取るある行動。これ、先ほどのメールでもね、指摘があったあたりでございます。具体的にどういう行動を取ったかは、映画を見ていただきたいんですけど。死にゆく者を前にして、どう行動するか? つまり、「善き人」であろうとすることっていうのは、どういうことなのか?っていう、まさにこれ『ナイスガイズ!』っていうタイトルにも呼応する作品テーマ、きっちりここ、それも暗示しているわけですね。

ということで、先ほども言った通りですね、この『ナイスガイズ!』という作品を……まずは最初にドキッとするフレッシュな見せ方、アイデアで、つかみはバッチリ!でやりつつですね、そういう全体のトーンとかテーマなどを、最初にまずきっちりと全部提示して見せる、本当に見事なオープニングだなという風に思います。で、そこからいかにも70年代的なというか、負け犬、アンチ・ヒーロー型主人公2人がバディになっていくまでを、キャラクター紹介込みで見せていくわけですけど。まあ、今回はなにしろもうね、まあオイシイのはライアン・ゴズリングです。ライアン・ゴズリングが演じる、「悪徳」と言っていいでしょうね。悪徳私立探偵ホランド・マーチ。これが本当に楽しいっていうか、本人がなにしろ楽しそうなんだよね。演じていて。

もちろん、『ラ・ラ・ランド』を含め、かっこよくて演技も上手い名優としてのライアン・ゴズリングっていうのを我々は知っているわけですけども。今回の『ナイスガイズ!』に限っては、これは構成作家の古川耕さんの表現を借りますと、「あえて“安い笑い”を喜々として取りに行っている」(笑)。安い笑いを喜々として取りに行っている、この感じがすごくいい。要は、こういうことですね。面白い顔をしたり、変な声を出したりして、笑いを取りにきていると(笑)。特にやっぱり今回は、「声」ですね。もう何週間か前から私、当番組の「低み」コーナー、タイトルコールの時に指摘しております。ライアン・ゴズリングは、コミカルな役の時、ここぞという時に、「裏声」を必殺技として放り込んでくる。だから僕は(それに倣って)「(声を裏返して)低みッ!」って言っているわけですけども。

■投稿コーナー「低み」

たとえば、『マネー・ショート(華麗なる大逆転)』。素晴らしい映画でしたね。『マネー・ショート』の証券マン、最終的に読みが当たってきた時に、「ムホーッ! シンボーたまらん!」みたいな、こうやってトイレで叫ぶ場面、ありましたよね? かっこワル!っていう(笑)。あの感じですよね。今回はあれを……たぶんあれで味をしめたんですよ。あれがたぶん超面白かったから、味をしめて、もう全面的に、「俺の十八番ギャグ」みたいな、一発ギャグみたいな感じで、もう全面的に放り込んでくる。なにかっていうと、「(声を裏返して)「シット!」「ジーザス!」(笑)。なにかっていうと裏声で(笑)。とにかく情けない、かっこ悪い……やっぱりね、かっこよさって声のトーンだなって改めて思いましたね。

あと、極めつけは、最初にラッセル・クロウ演じる非常に乱暴な示談屋、ジャクソン・ヒーリーと出会い、ちょっとどうかと思うほどひどい目にあわされるシーンでですね、たしかに、かなりこれをやられたら痛かろうと思われることを、ヒーリーにされるわけですね。「ああ、こんな痛い目にあって、どんな声をあげるのかな?」って思ってたら……ライアン・ゴズリング、「キャーーーーーーーッッ!」って悲鳴を上げて、シクシク泣くんですよ(笑)。もう、声一発でこんな笑わせにかかる。今回のライアン・ゴズリングはもうね、とにかく安い笑いをあえて取りに行くというあたり、非常に好ましいあたりじゃないでしょうか。

あと、そのちょっと前のシーンで、ある家に忍び込もうとした私立探偵のホランドがですね。これ、フィクションではよくある描写ですよ。まずガラスをバリーン!って割ってから、内鍵を外すっていう。これはよくありますよね? それをやろうとして、ドアのところでガラスをバリーン!って割って……そこから、ちょっと目も当てられない大惨事になるっていう(笑)。もう爆笑のシーンが、もう何度見ても爆笑しちゃうシーンがあって、こことかも最高でございます。

対するラッセル・クロウのですね、まあ善人であろうとはしているけど、いかんせん暴力以外のコミュニケーションの仕方を知らないという、まあガサツで無骨な男っていうのは、はっきり言ってラッセル・クロウには、もう別にあんたそのまんまで行けるだろ?っていう役柄ですよね。ちょっと前なら、ニック・ノルティとかがやったような感じですね。途中ね、一瞬の回想ショットで、妻から思わぬ告白を受けて、水をブホッと吹き出したまま、「えっ、なんだって?」っていうあの回想とか、俺、ラッセル・クロウでこんな笑ったのは初めてですね。なんかかわいいんですよね。なんかね、不器用な感じが。で、その一瞬の回想シーンとか、さっきのガラスを割って大惨事のシーンとか。

あとは、たとえば本当にちょっとしたシーンですけど、ボウリング場で娘の誕生会をやっているんですけど、そこで娘の友達がボウリングの球を真後ろにドターン!って投げちゃうっていう、これ、ストーリーと何の関係もない……とか。途中で少年に聞き込みをするんですけど、その少年が妙に自分の巨根を自慢し、見せたがるっていうくだり(笑)とかですね。あと、そのポルノ業界のパーティーに忍び込むという場面のいろんな扮装のバカバカしいディテール。ちなみにあのパーティーをやっているロケ地は、なんと音楽プロデューサー、ダラス・オースティンの家を使っているということらしいんですけどね。

ということでまあ、本筋のストーリーとは直接関係ない、ちょいちょい放り込まれるオフビートなおかしみのある描写、ディテールっていうのが、これに要は「関係ねえじゃねえか!」ってイライラしだしちゃえば、それはそうかもしれないけど。そこのおかしみを味わうのも、僕は本作の大きな魅力だと思うんですよね。ただ一方で、たとえば大気汚染に抗議するダイ・イン。こうやって寝て、死んだふりをしてやる抗議活動の若者たちと、しょうもない言い合いをする、これまた爆笑の場面があって。これも、さっきからのそういう関係ない面白ディテールかなと思いきや、ちゃんとこれはお話の伏線になっていたりというあたり。油断はできない。ちゃんとストーリーテリングの構造になっている。

とにかく笑わせ方が――ただしこれだけは言える――いちいち軽薄で不謹慎(笑)。これは言える。ただ、要はフィルム・ノワールっていうのはもともと、腐敗した世界の中を生きている人たちを描くジャンルなので……もともと腐敗している、もともと腐りきった世界なんだから、「笑っちまうよな」っていうのは実は合っているわけです。不謹慎な笑いは、非常に合うわけです。まあ、ここまで堂々と人の死を笑いのネタにするっていうのもね、いまでは結構珍しいタイプの映画かもしれないけど。ぶっちゃけここで引く人、ここで怒っている人がもっといてもいいかな?って思ったぐらいですね。

たとえば、実はロバート・ダウニー・Jrが演じているらしいある死体を、主人公2人が、「ヤベー。この死体、隠そうぜ」って……まず、これがもう主人公の行動としてどうか? なんだけど。「この死体、隠さなきゃ」ってやって、ドーン!って捨てるその先は……っていう、この本当にひどいネタがあったりとかですね。何しろ最終的に、「いやー、でもね、なんだかんだ言ってもみんな無事でよかったよ!」「いや、結構人、死んでるんだけど……」「いや、でも即死だったからまだよかったよ!」っていう(笑)。なんだ、それは?っていうことを言ってゲラゲラ~ていう、そういうね。

ただね、ともすると単に露悪的なだけに終わりかねないそういうコメディーのトーンに、これは本当、メールでも書かれている方が多かった通りですね。ドラマ的、モラル的な芯を、それでも一本通す役割を果たしているのが、悪徳探偵ホランドの13才の娘、ホリーというキャラクターと、それを演じるアンガーリー・ライスさんの、非常にどっしりした演技と力量、ということだと思います。さっきも言った、「善き人」であろうとすることの意義……たとえば、人の死を前にしてどう振る舞うべきなのか? というようなところを、要所要所に(配して)……実はちゃんと、意外と倫理的なバランスを取っている、お話的には、最後にはきっちりと感動をさせられてしまうあたり。あるいは、「汚れちまった負け犬たちが、それでもなけなしの善意と勇気を振り絞って、ほんのささやかな、ごくごく稀にしかない“勝利”を手に入れる」ような物語としても、要はちゃんと「魂がある」。露悪的なだけじゃない。魂はある映画に、ちゃんとなっていると思いますね。

あと、たとえば自動車産業をめぐる政治劇としてのオチも、とても普遍的な苦さ、鋭さを含んでいると思います。あそこで、実はいちばんの黒幕だったワルがぬかす理屈に対して……あれはすごく、我々も、いまでもよく聞く理屈じゃないですか? で、それに対してホランドが、気の利いた返しでね、イヤミで返すとかね。あのあたり、非常に僕は、やっぱり鋭さを含んでいて素晴らしいと思います。ただもちろん、そこに至るまでに、たとえば特にクライマックス。自動車ショーのクライマックスなんですけど、そこのくだり、加速度的にですね、スラップスティック・コメディー化していくという。これもまあ事実でございます。

だって今時ね、「滑って転んで気絶」って場面、見ます?(笑)。これは褒めてますけどね。で、その滑って転んで気絶とか、そういうのがどんどんどんどん加速していって、そこからまさにですね、「高低差のある空間を生かした落下と追跡」が連続していく、スラップスティック・アクション、この畳み掛け。もうほとんどバスター・キートン〜ジャッキー・チェンの系譜っていうような、「えっ、そこまで落ちる!?」みたいな、連続落ちのあれなんか……こんなの楽しいに決まっている場面ですしね。まあ、あえて言えば、あれだけ無双に見えたあの殺し屋が、意外とあっさりグロッキーしちゃったのはちょっと拍子抜けかな?っていう気もしなくはないけど、いや、そこであえて、「これ以上は盛らない」っていう感じが、これもやっぱりね、シェーン・ブラックさんのデビュー以降……つまり、80年代、90年代アメリカアクションと、70年代アメリカアクションを隔てるのは、この、最後にもう1個「盛らない」っていう感じだと思うんですよね。なので本作は、このぐらいでいい、っていうことなのかなとも思います。

全編ね、70’s音楽。特にやっぱりディスコクラシック。当然ノリノリでかかる。これはもう本当に最高ですし。最後ね、まあ誰からも褒められることはないんだけど、ほんの少しだけ人生の誇りを取り戻せた2人の今後っていうのを匂わせて、最後にこの、アル・グリーンのこのね……「Love and Happines」がかかって、余韻が残る。これ、僕は完全に「いや、この2人で続編、お願いしま~す!」っていう感じでしたけどね。実際にこの企画、もともとテレビシリーズとして企画されたものが映画になっていったものなので。たしかにこの調子で……軽くていいし、出来・不出来があっていいから、あと12話とか余裕で見たいっていう感じですね。

1回見て、いろんなことの面白みがわかった上で、友達とかと一緒にゲラゲラ見直すのも楽しそうだし、たとえばいま(都内の劇場で)やっている、日本語タイトルが『バッドガイズ!!』っていう、マイケル・ペーニャとアレクサンダー・スカルスガルドが出ている映画。これと、たとえば2本立てで見るとか、そういうこともしてみたいし。とにかくまあ、「映画楽しいよな! 映画、やっぱり楽しいよな!」っていう風につくづく思う、僕はもう大好物に決っている1本でございます。ぜひぜひ、映画館で普通に声を出して笑ってウォッチしてみてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『ラ・ラ・ランド』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

<以下、ガチャ回しパート>

『ナイスガイズ!』、ライアン・ゴズリングの見せ場といえば、あのトイレ(笑)。あれはもう「トイレダンス」と名付けたいね。あれも最高でしたね。ということでぜひ、『ナイスガイズ!』。見ていただきたいんですが、来週のウォッチ候補作品6作品を発表いたします。(以下、省略)

 

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