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【映画評書き起こし】宇多丸、『ドクター・ストレンジ』を語る!(2017.2.18放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

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宇多丸:
ここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと<シネマンディアス宇多丸>が毎週自腹でウキウキウォッチング。その<監視結果>を報告するという映画評論コーナーでございます。今週扱う映画は先週、「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して決まったこの映画……『ドクター・ストレンジ』

(BGM:テーマ曲が流れる)

『アベンジャーズ』『アイアンマン』シリーズなどが連なる<マーベル・シネマティック・ユニバース>の第14作。イギリスの人気俳優ベネディクト・カンバーバッチが魔術を操る異色のヒーロー、ドクター・ストレンジを演じる。監督は『地球が静止する日』『フッテージ』などのスコット・デリクソンさんということでございます。ということで、『ドクター・ストレンジ』をもう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)メール、いただいております。ありがとうございます。『ドクター・ストレンジ』、もちろんね、マーベル映画最新作ということで。とりあえず見るという人は多いでしょうしね。予告とかCMの映像もすさまじいということで、メールの量は多めでございます。

賛否の比率は「賛」、褒めている方が4割。「否」、ちょっとけなしている方が4割。残りがその中間といった割合でございます。褒める人の主な意見は「映像表現に驚いた。IMAXか3Dで見るべき」「ベネディクト・カンバーバッチのハマり役。他の役者もいい」といったところ。反面、否定的な意見としては「映像はすごいけど、それだけ」「ストーリーに乗れないし、キャラも立っていない」「マーベル作品の中でも最低クラスでは?」などなどの意見もございました。

代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「2人はオルゾフ」さん。「結論から言えば、最高に楽しい映画でした。これまでに数多くのヒーローを世に送り出してきたMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のノウハウはさすがです。期待通り、期待の上を行ってくれた感があります。ノーラン監督の『インセプション』を数段アップグレードしたかのような映像表現は見ていて単純に面白い。ティーザー映像にもなった『Wifiパスワード』に象徴されるコミカルなシーンではお子様から奥様方まで笑いが起こっておりました。個人的に本作の白眉はずばり、最終決戦のプロットだと思います」。……ちょっとね、ネタバレになりますので、ここは伏せておきましょう。「たったひとつの冴えたやり方は同時に、ストレンジ自身の自己犠牲を前提にしなければ成立しません。エゴに取りつかれていたストレンジが利他的な行為を選択して、真のヒーローとなる瞬間、神にも等しいラスボスが明らかに動揺している、最高のカタルシスポイントでした」というご意見。

一方、ダメだったという方。「西山コタツ」さん。「一言でたとえるなら、『大がかりな万華鏡』といった印象でした」。たしかに、万華鏡的表現、ありましたね。「ヒーローの誕生譚として語るべきプロセスをすっ飛ばしたような、不完全な脚本を派手な映像と金のかかったキャスティングで強引に『これ、マーベル印なんで』とねじ伏せてくる感じが無性に鼻について仕方ありません。特に話の端々で挟まれるギャグには辟易してしまい、即物的な笑いを取ろうとするせいで、冒頭の悲惨なシークエンスが全く意味をなさなくなってしまったどころか、ドクター・ストレンジの相棒であるウォンがことごとく無能に見える演出には腹が立ちました」というご意見でございました。

はい。といったあたりで『ドクター・ストレンジ』評論に行かせていただきましょう。私もT・ジョイPRINCE品川でIMAX字幕3Dで2回。今回はこのフォーマットだけで2回、見てまいりました。というのは、やっぱりビジュアルトリップしてナンボの作品なのは間違いないということで。ただね、「吹き替えが結構いい」なんて評判も聞くんでね。ちょっと吹き替えが見れなかったのは、すいません。ということで、先に言っておきますけど、もし未見のみなさんも、『ドクター・ストレンジ』をいずれ見たいなんていう風に思っている方がいたら、ソフトのリリースとか配信待ちとかをするんだったら、『ドクター・ストレンジ』に関してはいま、特にIMAXとかで見ておいた方がいいんじゃないでしょうか。

マーベル・シネマティック・ユニバース、いわゆるMCU。今日も「MCU」と略しますけども、その14作目にしてフェイズ3の2作目……なんていうと、一見さんお断り的な敷居の高さを感じてしまう方も多いかもしれません。「ここから入ったらわからないんじゃないか?」っていう方もいるかもしれませんが。たしかにですね、ここんところのMCU、クロスオーバー要素が累積していって、ちょっとビギナーがいきなり見てもわかりづらいところが増えてきた。特にやっぱり『シビル・ウォー(/キャプテン・アメリカ)』。この番組では2016年6月4日に扱いましたが、『シビル・ウォー』はやっぱりそういう感じが臨界点……もうこれ以上行くと、いよいよ一見さんお断り度が高くなりすぎるんじゃないか?っていう感じが『シビル・ウォー』、ありましたけども。

でも、それとは対照的にですね、今回の『ドクター・ストレンジ』は久々に、ほぼ単体の作品としても成立する作りになっている。もちろん、MCU作品恒例の、本編が終わった後に今後のクロスオーバーに向けた予告的なおまけシーンがつく、これは今回も付いてますし。あと、本編中にも「同じ世界観の中の話ですよ」っていうことを、今後出てくるキャラクターへの布石もふくめて、ほのめかすような……要は、「わかる人にはわかる」ディテールっていうのは、ちょいちょいあったりもするんですけども。ただ、やっぱり本編の中に、メインのお話の中に、他のシリーズの登場人物が全く出てこないのって、それこそフェイズ1の頃以来じゃない? 『アイアンマン』『マイティ・ソー』『インクレディブル・ハルク』。このあたり以来ですよね。

『アントマン』でさえ……この番組だと2015年10月17日に扱いましたが。『アントマン』は比較的単体で成り立つようになっていましたけど、ファルコンとの絡みっていうのはあったわけですから。ということで、最近のMCU作品の中では比較的単体で入り口になりやすい一本、ということは言えるんじゃないかと思います。ただまあ、『ドクター・ストレンジ』ってね、はっきり言ってここ日本だとほとんど知られていないキャラクターと言っていいですよね。今回、悪役のカエシリウスっていう役をやっているミッツ・マケルセン(※宇多丸註:この回の僕、放送上では俳優さんの名前の“言いまつがい”がやたらと多くて、ミッツさんのことを「マッツ・ミケルセン」って言っちゃってるし(笑)、その後のティルダ・スウィントンさんも言い間違えてたり……ほんとポンコツで申し訳ありません! この書き起こしでは訂正済みのバージョンを掲載させていただきます)も、「ヨーロッパでは『ドクター・ストレンジ』はそんなに人気がなかったので……」なんてことをインタビューで言っているんで、たぶん要は、アメリカ以外の国ではだいたい同じようなものだと思うんだけど。

口ひげに白髪交じりのおっさん魔法使いってね……(笑)。ちょっとどういう理由で人気があるのか、わかりづらいところがあると思うんですけど。かくいう僕もよくわかっていなくて、このタイミングで、おなじみShoProさんから出ているコミックなんかを読んで理解しましたということですね。特にやっぱりね、毎回(MCUの)映画が出るたびに出る「プレリュード」っていうですね、映画の前日譚と、あと元の昔のコミックスのオリジン、最初の頃の話とか。映画がインスパイアされたコミックの元なんかが全部一冊に入った、「プレリュード」っていうシリーズがあって。これが非常に勉強になりました。これ、入門編としてみなさんにもおすすめしたいと思いますが。

でも、とにかく詳しいことは専門家の方々の解説が……当番組でもおなじみ光岡三ツ子先生とか、パンフとか『映画秘宝』とかで詳しいのが載っているんで、そちらを読んでいただくとして、とりあえずものすごーくざっくり、『ドクター・ストレンジ』は何が人気だったか?っていうことをめちゃめちゃざっくりと言ってしまえば、まあこういうことです。ぶっちゃけ、60年代のサイケデリックなトリップ感覚……要はLSDによるサイケデリックなトリップ感覚や、東洋的な神秘主義や精神世界ブームという。要はヒッピーカルチャーですね。ヒッピーカルチャーとフィットしたと。そういうので、「あっ、すっげー“トベる”コミックだぜ!」っていうんで人気が出たということですね。

なので、今回の映画版でも、いつも通りマーベル・シネマティック・ユニバースのお約束でスタン・リーがカメオ出演を毎回しますよね。今回のカメオ出演シーンでスタン・リーは、オルダス・ハクスリーの『知覚の扉』という本を読んでいるんですね。で、それを読んで爆笑している。『知覚の扉』っていうのは要はメスカリン……まあLSDですよね。で、どういう風に意識が変容していったか?っていう本で、非常にその後の、ティモシー・リアリーとかに影響を与えた本なんで。そういうことを踏まえた上でのお遊びなわけですよ。「『知覚の扉』を読んで爆笑している」っていう感じの、お遊びということですね。要はそういうぶっ飛んだビジュアル展開とか、あと物語展開っていうことですね。とにかくぶっ飛んでいる。

今回の「プレリュード」にも入っている「マーベルプレミア#14」っていうこれ(のエピソード)なんかは、今回の映画に影響を与えたという、すっごい大胆な……「えっ、こんなすごい話なの?」っていう。話は本当にすごいです。面白いなという風に思いました。ただ、原作者のスティーブ・ディッコさん自身はドラッグを含めて、そういうヒッピームーブメント的なものは毛嫌いしていたっていうことらしいんですね。これは光岡三ツ子さんの、パンフレットに書いてあったコラムにありました。「この世ならぬ世界がどのような姿か、考え抜くんだ」と。要は想像力の力で作ったものなんだというね。その意味では今回……1978年に実は、実写版テレビドラマっていうのがパイロット版のみ1回あったんですけど。これはネットとかでもちょいちょい見れて、ソフトなんかも出ていますけども……その頃にはまず不可能だったであろう映像表現とかが、いまはもうありとあらゆる意味で可能になったわけで。

そういう現在だからこそ、それこそサイケデリックトリップを、ドラッグ抜きで、イマジネーションとクリエーション、想像力と創造力で疑似体験させるという挑戦っていうのは、いまだからこそ、っていうのはたしかにあるかもしれません。で、その作り手として今回、白羽の矢が立ったのが……というより、自らわざわざ自費で「『ドクター・ストレンジ』を自分が映画化するなら、こうやる」っていうビジュアルコンセプト映像を作って。たぶんそれは後ほども言いますが、先ほどからいろいろ出ている、たとえばだまし絵的な魔術描写であるとか。まあ、ドクター・ストレンジがトリップするわけですけど、そのトリップ描写のシーンであるとかのアイデアだと思うんですけど、そういう映像を作って、MCUのボスであるケヴィン・ファイギさんとかに猛烈プレゼンをかけ、監督の座を見事にゲットしたという、スコット・デリクソンさんという方。

今回共同脚本にもクレジットされていますけども。3人クレジットされていて、(そのうちのひとりである)C・ロバート・カーギルさんという方は、スコット・デリクソンさんと2012年の『フッテージ』というイーサン・ホーク主演映画の原案・脚本を書いた人なんで。ということで、かなりスコット・デリクソンさんの色が強く出た映画化なのは間違いない、ということだと思います。このスコット・デリクソンさん、基本的にはホラーばっかり撮っている。まあホラーっていうか……昔の表現で言うと「オカルト物」ばっかり撮っている人ですね。リメイク版『地球が静止する日』っていうところもやっていますけど、それも含めて、まあ先々週のアントワン・フークアさんとか先週のギャビン・オコナーさんにも言いましたけど、そういうジャンルムービーを撮っているんだけど、やっぱりフィルモグラフィーを振り返ってみると、ものすごく明確な一貫性、作家性がある人。っていうかもう結構、並べてみると、「毎回同じ話をやっているな、この人」って思うぐらい。

すごい乱暴な表現をすればですね、毎回、『エクソシスト3』をやっているような人です(笑)。ちなみに『エクソシスト3』はもう大名作なんですけども……たとえば、スコット・デリクソンさんの監督デビュー作で、脚本も手掛けた『ヘルレイザー?ゲート・オブ・インフェルノ』っていう、2000年の映画然りですね、やはり監督・脚本の『エミリー・ローズ』然り、さっき出た『フッテージ』然り。あと、『NY心霊捜査官』。エリック・バナが出ているやつがありましたけども、それ然りですね。要は、こういう話……「最初は現世的な合理主義者だった主人公が、次第にこの世ならぬ世界、現実の向こう側にあるもうひとつの世界に導かれ、引き込まれ、ついにはその実在を確信するに至る」、という。で、そこまで至る過程として、映画の中では、主人公を取り巻く現実が「歪んでいく」っていう描写が、映画的に積み重ねられていくというね。今回の『ドクター・ストレンジ』も、話としては同じですよね。ホラー、オカルトでこそないけど、話としては同じこと。

たとえばさっき言った『ヘルレイザー?ゲート・オブ・インフェルノ』とかは、最初、主人公が、有能だけど非常に傲慢でどうしようもないクソ野郎であるとかですね。もちろん今回のそれとは比るべくもないぐらいチープですけども、ちょっとしただまし絵的な映像表現があったりとか……他の作品でもやっているんだけど、今回の『ドクター・ストレンジ』と、すでに重なるところが非常に多いわけです。スコット・デリクソンさん自身が、「この世を超えた“何か”はある、と心の底から信じているタイプだ」という風にインタビューなどで言っていたりもするので。ということで、まあ『ドクター・ストレンジ』という題材ね、決してもちろん、「オカルト映画」ってカテゴライズされるような作品じゃあないけど、でもそのスコット・デリクソンさんが、まぎれもなくオカルト映画として作ってきた作品群、その中で繰り返し追求してきたこと……現実の向こうにあるもうひとつの世界。それが次第に姿を現していくという物語であり、その物語を観客に実感させていくための「現実が歪んでいく」という映画的表現……これを追求してきたわけだけど、これを最大限のバジェットと技術でやり尽くす、絶好の機会だったということですよね、『ドクター・ストレンジ』は。だからこそということで、とんでもない情熱でアピールして、監督の座をゲットしたと。

で、まあ、それにちゃんと柔軟に応える、マーベルスタジオもさすがですよね。決してそんな、ビッグネームっていう監督じゃないですから。ネームバリューにこだわらない、適材適所の人材抜擢で成功を収めてきた、さすがマーベルだなという感じですけども。ということで、原作コミックの人気の本質であった、さっきから言っているサイケデリックなトリップ感覚。スティーブ・ディッコさんが想像力の限界まで挑戦して提示してみせた「この世ならぬ世界」というのを、どう実際にスコット・デリクソンさんが……自ら手を挙げてまでやったんですから。どうビジュアライズして見せたのか? そしてそれを見た我々観客が、どれだけドラッグ抜きで「トベる」のか? 「うわ〜、トベたわ〜!」ってなるのか?(笑)っていうことが、本作の勝負ということですね。

なので、最初に言った通り、やっぱり没入感が高いIMAXがおすすめというのは、そういうことなんですよね。で、まずはやっぱり、すでにみなさん予告とかCMなどでも目にしていると思いますが、ああいうエッシャーのだまし絵的な、街全体の空間が、現実の物理法則に反して、どんどん変化していくというあのビジュアル。まあ、動くエッシャーのだまし絵というかね。そういう感じ。もちろん、同じアイデアは、先行作品としてまずは当然、アレックス・プロヤス監督の『ダークシティ』ね。ありますよね。1998年。これがありますし、もちろん近年、先ほどのメールにもあった通り、クリストファー・ノーランの『インセプション』。『インセプション』の評をやった時に「街がグワーンと動くのはこれ、『ダークシティ』じゃねえか?」っていう風に言いましたけども。もちろん『インセプション』もありました。『インセプション』の街がグワーン(と変化してゆく)っていう表現も、やっぱりすごく楽しかったですよね。

で、先ほどのメールにもあった通りですね、『インセプション』をさらにド派手に……ド派手なだけじゃなくて、細部のいろんな細かいところまで、「ギーン、ガチャガチャ、ギーン、ガチャガチャ」みたいな動きまで、100倍複雑にしたようなあのビジュアルっていうのが、まずはたしかにやっぱり案の定、楽しいですよ。それは楽しいですよ。あと、その「ガチャガチャガチャガチャッ……」って動くだけじゃなくて、重力の方向が変わってゆくアクションというか。ゲームで、『Portal』っていうパズルアクションゲームがありますけども。『Portal』的な、穴が空いていて、落下しているんだけど、そっち側では横の空間にポーンと抜けていくというような……『Portal』的な(現実の物理法則とは異なる)重力方向の、落下・移動表現みたいな。あれとかも非常に面白かったですよね。

こればっかりは実際に見てね、「ああ、そういうことか」ってわかってもらうしかない。口でいくら表現してもしょうがないんですけど。ただこの画ね、たしかにすごいんだけど、まずひとつの画面の中で、あまりにもいろんなことが大がかりに、しかもさっき言ったように細部まで、ガチャガチャガチャガチャ、複雑にいろんなことが進行しているため……それに加えて、実はここがこの映画の最大のネックだと思うんだけど、この物語世界内で、登場人物である魔術使いたちに「何ができて、何ができないのか」っていうルール設定が、いまいち明確でないように、少なくとも初見の観客には思えてしまうところが多々あるため、物理法則を超越した何でもあり状態が映像で示されても……画としては驚けますよ。画としては、「あっ、すごい画だな」とは思うけど、話としては、どの程度この現象に驚けばいいのか、切実に感じづらいというところが多々あるのが、この映画最大のネックではないかという風に思いますね。

さっき言ったように、もともとね、精神世界的、神秘主義的な、いわば抽象的な戦いが『ドクター・ストレンジ』のイズムでもあるため、いかんせんわかりづらいところが出てきやすいんだけど。その方向で言うと、ストレンジが師匠であるエンシェント・ワンっていうキャラクター……これを、ティルダ・スウィントンさんっていう白人女性で、しかもそれを丸坊主にして演じさせるっていう、これはすごく物語世界の現実離れ感っていうか、荒唐無稽感をわかりやすくポンと出して、「そういう感じのリアリティーの映画ね」って提示する、ナイスアイデアだと思いますが……とにかくその師匠に、幽体離脱トリップをさせられ、超ビビらされる(笑)、超おどかされまくる場面ありますよね。あそこ、『2001年宇宙の旅』のスターゲートのシーンとか、あと『アルタード・ステーツ』のトリップシーンとか、過去にあったいろんなサイケデリックトリップ的なシーンを、現在の技術でアップデートしまくったような場面が、ちょっと悪趣味なところも含めて……たとえば手がニョキニョキニョキニョキって出てくるあの幻視とかも含めて、ちょっと悪趣味なところも含めて、ここはめっちゃ楽しい!っていう感じだったと思います。ここはもう単に(ストーリー的にも)すげービジュアルで超ビビらされる、というだけなんでね。すごく楽しかったと思います。

あと、クライマックス。ずっとね、ここまで画的なだまし絵感の話をしてきましたけど、クライマックス。先ほどのメールでもネタバレしないように伏せたところですけど。画的なだまし絵感だけじゃなくて、実は物語展開的にも、ストーリーテリング的にも、だまし絵的な……「あれっ? どこまで奥があるの?」的な。ストーリーテリングにもだまし絵的な構造が用意されているのが、「あっ、面白いな。楽しいな」っていう風に思いました。これ、どういうことなのか?っていうのを、できるだけうす〜いネタバレのみに留めて言うならば、この番組でも取り上げたことがある、トム・クルーズ主演の、あるとっても楽しい映画の中の、特にとっても楽しいある展開(笑)を彷彿とさせる展開があって。それが非常に、話の展開としてもだまし絵的、「えっ、どこまで奥があるの?」っていう感じでよかったと思います。

プラス、『マトリックス・レボリューションズ』ですね。「団交」っていうやつですね(笑)……まあとにかくですね、そんな感じでございます。クライマックスね、高層ビル街っていうか、ビル街の上空に、ドギャーッと異界のドアが開いて、ブブォーッてなんかなっていって。で、「この世の終わりだーっ!」って、「またそれかよ?」と。俺、そのブブォーッてなっているふもとに、半裸の女がクネクネ踊っているんじゃないかな?って思って(編注:『スーサイド・スクワッド』のこと)。やめてくれよって思って見ていましたけどね。まあ、「またかよ?」な絵面なんだけど、さっき言ったストーリーテリング側にちょっとフレッシュな展開があるので、その見た目の陳腐感はちょっとクリアしているんじゃないでしょうかね。

まあ、そこで出てくる今回のヴィランの、大ボスみたいなのがいるんだけど。まあ、ドーマムゥっていうね……暗黒次元っていうのがあって、なんですかね? (我々がいまいる世界の)向こう側にもう1個、なんか(別の世界が)あるんでしょうね? それの大ボスみたいなのなんだけど、これがまあ、目とか付いていて。まあ英語をしゃべるわけじゃないですか。そういうのがドーン!って出てくると、僕は正直、この番組でも昔、扱いました。『宇宙戦艦ヤマト復活篇』っていうね(笑)。あそこで大ボスとして出てきた人が、「私はブラックホールだ」っつってね(笑)、「ワッハッハ」なんてやるんですけど。それを思い出す感じで……まあバカバカしくて、これはいいんじゃないかなと思いますが。

ただ、さっきも言ったように、ルールの不明瞭さに伴う若干のどうでも良さ感っていうのは全体にありますし、今後のシリーズ化を見据えての……この言い方ですね、僕は。「ためにする仲間割れ」がね、ちょっと……要は、理屈としてはジェダイとシスみたいな理屈なんだけど、ここまで仲間割れした挙句、態度を変えてしまうほどのことに見えないっていうか。非常に不自然な仲間割れがあったりとかしまして、正直どうなの? と思うところは多かったです。ただまあ、役者陣は超一流陣が揃っていると、こういう若干雑だったり、「私はブラックホールだ」っていう『ヤマト復活篇』みたいなのが出てきても(笑)、結構安心して見れるっていうのが、やっぱりね、カンバーバッチ力だったりキウェテル・イジョフォー力だったり……要は『それでも夜は明ける』コンビの力だったりとかすると思います。

今回あのね、ヒロインというか、ストレンジの元恋人役のレイチェル・マクアダムス。先ほどメールにもちょっとあったんだけど、レイチェル・マクアダムスがね、これすげーどうでもいいディテールなんだけど……要はストレンジの魔術を目の当たりに、最初に見せられて超ビビっている状態で、彼女の驚き方がいちいち……そこまでの場面もかわいいんだけど、掃除道具がバタン!って倒れた時に、「うわっ!」って驚くんだけどね、その時に、足をピョンって上げて、「うわっ! キャッ!」ってなるんですよ。あの驚きのフォルムが、なんか昔の少女マンガみたいな驚き方をするんだけど、「か、かわいい!」っていう。あそこの一発でキュン!ってなる感じで、すごく素敵でしたね。ただね、この映画、今回のストレンジの本当のヒロインは、マントです(笑)。マントが超ジャレてくる感じが、そこはすごいベタベタなギャグ感でしょうもないんだけど。僕は嫌いじゃなかったです。マントとジャレるっていう、なんじゃそりゃ? な感じとかがね。

スコット・デリクソンさんね、続編以降もきっとやるつもりなんだと思います。ナイトメアっていうヴィランを出したかったなんて言っていて……ナイトメア(悪夢)と言えば、『ドクター・ストレンジ』を映画化する話って昔からあって、1992年の段階の企画時では、(監督候補は)ウェス・クレイヴンだったっていう。要は、『エルム街の悪夢』が撮れる人は、『ドクター・ストレンジ』も撮れる……つまり、ナイトメア(というヴィランのエピソード)をやるんだったら、スコット・デリクソンだったらどういう風にやるか?ってこれ、結構楽しみですよね。現実歪み描写、グイグイいろんなことをやってくれると思いますんで。僕はとっても楽しみではあります。

まあ、欲を言えばもっとオカルト化しても、もっと怖い感じにしちゃっていいんじゃないか? もっとサイケ描写があってもいいんじゃないか? とかありますが。でも、まあ楽しい映画。いろいろちょっとね、文句チックなところはあります。物足りないところもありますが、僕は楽しい映画でございました。ぜひぜひIMAX 3Dで見た方がいいですよ。ソフトで見てもどうかな?っていう感じでございました。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 〜 来週の課題映画は『サバイバルファミリー』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしはこちらから!